至る所に落とし穴はある

至る所に落とし穴はある
 仕事仲間の冷凍機屋から業務用冷蔵庫の修理依頼が合ったのは大体一週間くらい前だった。
コンデンサーファンモーターが昇天間近で凝集不良気味なので扇風機を持ち出してしのいでおり,補修パーツが来たら交換して欲しいとの内容だった。

 こういう修理はお手軽に小銭が稼げる,俺にとっては有り難いオファーなので二つ返事で引き受けた。すると翌日、以来元からはその現場での追加修理の依頼が来た。冷凍冷蔵庫のコンプレッサーを交換してほしいとの事だった。
 その現場はある焼き鳥のチェーン店で、今年の冬に同じ型式で別の冷凍冷蔵庫のコンプレッサーを交換した事がある。仕事が増える事で貧乏暮らしから少しは浮上できるかと俺は嬉しい気分で快諾した。朝から取りかかって昼頃までにはケリがつくだろう、割のいい稼ぎになりそうだわい、と俺はそろばんを弾いてニンマリした。

 が、しかし。
物事そうすんなりとは行かないものらしい。
一昨日、依頼元の仕事仲間が慌てて連絡をよこして来た。届いたコンプレッサーが現在ついているものと違っているというのだ。
 製造元では同形のコンプレッサーが既にないので別の形式のコンプレッサーと改造用のキット一式が送られてきたのだそうだが、作業事例が今のところないので所要時間が予想できないのだが何とかならんかと言う。
 目先の金に目が眩んだこの俺が尻込みする訳はない。やってやろうじゃないのと大風呂敷を広げた事を今はちょっと後悔したりもする。
 修理というより改造で,こういう作業は滅多にないので毎度ながら手探りで時間が読めないがとりあえず始めた。

 
 取りかかる前の状態。冷蔵庫の前には炭火焼の台があり,全体に白っぽいのは灰が飛散して堆積した結果だと思う。今回の修理の発端となったコンデンサーファンモーターの焼損もそれが原因ではないだろうか。

 既存のコンプレッサーを取り外した状態。同一品との換装ではないので配管の接続を考慮しながらパイプカッターで冷媒管を切断するのだが結構考えながらの作業で初見だと意外と時間を食う。

 今回交換する新しいコンプレッサーでオイルクーラーのついたレシプロ機だ。固定用のボルト穴は当然ながら元々ついていたローターリーコンプレッサーとピッチが異なる。
 単純に冷凍庫,冷蔵庫であれば上の機械スペースはゆったりしていて融通は効くが今回は間口1200mmの冷凍冷蔵庫なので結構窮屈であり、配管の位置や後々修理があった時の作業スペースを確保しながら位置決めを行う。

 
 その筋の方はご存知と思うが,ある能力以上の冷凍機は冷媒の吸入と吐出の他に冷凍機油の冷却配管の系統を持ち,今回のケースはそれに該当している。故障品と同じコンプレッサーを交換するのであれば特段考えることもなく、以前あったように配管を繋げばいいだけだが異なる形式のコンプレッサーとなるとどの接続箇所が何の働きをしているかを考えながら配管を切ったり繋いだりしなければならない。
 交換品にはその箇所を表す資料が添付されてくるが取り外した既存品にそのような記述はない。また,今回の個体はそれぞれオイルクーラーを持つ2コンプレッサー,1コンデンサーという構成なのでコンデンサーには冷凍冷蔵併せて8本の冷媒管が接続されていることになってややこしい。
 配管の誤接続は後々面倒なのでそれぞれの配管にタグを付けておく配慮が働く程度には俺も年季が入ってるということだ。

 冷媒管接続を済ませる。250W程度のレシプロコンプレッサーに果たしてオイルクーラーが必要なのかという疑問が俺にはあるが三洋はコンプレッサーのパーツメーカーでもある。それまでついていた縦型ロータリーはオイル上がり防止のためにオイルクーラーの系統が必須だったわけだがこういう帳尻の合わせ方にはあまり必然性を感じていない。

 コンプレッサーの変更に伴って始動回路などの周辺パーツも変更されたが作業マニュアルが酷く不親切な代物で殆ど全くといっていいくらい自分でその構成を考えて取付けなければならないような有様で今回の作業ではここに一番時間を食われた。
 白状すると,6時間くらいかかる作業でそのうちの半分以上は始動回路の変更と実装に費やす羽目になった。
 セットになって付属された配線だと大変短く,始動リレーやコンデンサーが電装ボックスの中には納められないし与えられた配線図だと一部配線被覆の色が記述されておらず,結局灰まみれの見えにくい元々の配線図から手書きで変更されたコンプレッサー起動用の回路を自分で書き起こすことになった。今回最大の落とし穴だ。店舗の開店時刻が迫ってきてオーナーの目が段々吊り上がって来るのがきつい。

 とりあえず動きますの図である。弱り目に祟り目で,今回の修理では冷媒の充填中にチャージングスケールが突然昇天して封入量が把握できない事態に陥った。
 何か,こういう局面で俺の中ではある種スイッチが入った状態になるようだ。冷媒はヤマ勘でオーバーチャージ気味にしておいて圧力ゲージを睨みつけながら徐々に冷媒を抜いていき(今日日では違法行為だが二度手間は避けたいのだ。諸兄よ見逃してくれ!)蒸発温度が-30℃になるように低圧側の圧力を下げていく。
 果たして冷凍庫の温度計はしばらくして-15℃を指示した。とりあえず安全圏内に到達で一安心といったところ。

 結局,始動リレーとコンデンサー類はベース部分の空きスペースに取付けることにした。乱雑な配線をまとめてこれにて終了の図。

 こうして元々ついていた縦置きロータリーコンプレッサーと並べてみると,旧来のレシプロはいかにもでかく,効率は悪そうだ。
 試しに運転中の電流値を測ってみると,ロータリーは2A弱程度なのにレシプロだと4A強の値を示す。でかく,重く,電気は食うで悪いところだらけのレシプロだが業務用とで考えると決定的なアドバンテージはある。
 それは負荷変動への強さだ。同じ出力のコンプレッサーだとレシプロは疑問の余地なく立ち上がりが早い。今回の修理では冷凍,冷蔵共に室温20℃で始動させた。冷蔵の温度設定は0℃、冷凍は-20℃だったが設定温度の到達時間がほぼ同じか冷凍の方が早かったかもしれない。同じ機械出力でありながらこの差は何なのかと思わず笑いたくなる。 
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