以前の同僚と歳月を噛み締める

以前の同僚と歳月を噛み締める
 近日中に屋外冷凍機を交換する工事があり、現場での荷受けや既存期待の撤去にユニックが必要になり、それは得意先が手配する手はずだったのだがトラックの持ち主にご不幸があり、工事に関われなくなったため急遽俺が探しまわる事になった。

 いつもながらついていない話だ。
トラックの借り出しや当日のユニックのオペレーターの銭をどうやって捻り出すか、全く頭が痛いわい。ここしばらく携わる仕事には必ずと言っていいほど何かしら切羽詰まった用件がつきまとう。

 悩ましい気分で思案を巡らせているうちに俺はある人物の事を思い出した。
彼は俺の最初の職場で俺と同期入社した同い年の同僚で、俺はサービス、彼は営業で同じ営業所に配属され新入り同士一緒に組んで仕事に携わっていた事がある。住まいは会社で借り上げたアパートで同居しており、その生活は大体一年くらいだっただろうか。

 俺は入社後4年くらいでその職場を退職し、それから一年くらい遅れて彼も退職し、故郷の実家に戻り、家業である製材販売の仕事を継いだ。
 偶然、俺と彼は隣町に住む者同士で、お互い退社後、断続的に顔を合わせて飯を食ったり他にも色々関係は続いたがここ数年は疎遠な状態が続いていた。

 仕事の合間を縫って俺の仕事のサポートをしてもらう事もあり、クレーンのついた4トントラックを所有していたので納品現場で随分助けてもらった事を思い出したのだ。数年ぶりにバイトというか小遣い稼ぎの相談でも持ちかけてみようかと俺は途中で缶コーヒーを買い込み、なんだか懐かしい気分で車を転がした。

 最後に彼の職場である製材工場を訪ねたのは4年くらい前だったと思う。元々大して大きな町でもない俺の生息地だし、記憶力は人並み程度に働くはずの俺なのだがどういう訳か何度も訪ねた製材工場の所在がはっきりしない。見慣れた土場があったはずの場所は違う風景になっている。
 違う風景、というのはそこに別の新しい建物があるのではなく、あったはずのものが中途半端になくなっているという見え方で、俺は何だか腑に落ちない気分で車を降り、辺りを見回した。
 するとその場所、以前は製材工場があった土地の奥には車庫のような小屋があり、そこに腰掛けている人物と目が合った。
 その男は俺に向かって手を振って来た。ここ数年視力が衰えて来た俺が近寄り、目を凝らしてみるとそれは以前の同僚である彼で、4年ぶりの再会と相成った。

 仕事場の変わりように俺が戸惑っていると、以前の土場は漏電火災によって焼失してしまったのだと彼は話し始めた。およそ3年前の事らしい。
 3年経っても焼失した作業場は再建される事がなく、製材の業務は現在行っておらず測量用の杭などを細々と作り続けているらしい。何度もご厄介になったクレーン付きの4トン車が見当たらない。俺はそこに何か、詮索すべきでない経緯がある事を読み取った。

 それから俺たちは雑然とした車庫で椅子に腰を下ろし、しばらく近年の色々な事を話した。
4年前にここを訪ねた時、それは俺が色々な要因があって自分の商売が左前になりかかり、あわや廃業とか自己破産とかいう局面をどうにか切り抜けた直後での事だった。その後1年くらいの間に今度は彼の身辺に色々と痛々しい出来事が続き、周りの状況は冷え込み、陰惨さを増していったようだ。俺はそれをここで仔細に書く事はしない。
 
 話題が俺たちの以前の職場の現状に及んだ時、彼はああいうやり方が結局正しかったのだな、と述懐した。辞めないで居続けた方が良かったんじゃないか、と冗談混じりに笑った。
 それはどうかと俺は切り返した。今でこそ盤石の地盤でスマートに組織立ったペンギンマークだが、俺たちがぺーぺーの新入社員だった頃などは絵に描いたようなブラック企業で、まるで新興宗教か軍隊みたいなその社風はとてもじゃないがまともな感覚の持ち主が長く勤まりそうなものではなかったはずだ。現に、俺たちが相次いで退社した頃に在籍していた社員で今でも勤まっている人などどれだけ残っているか。
 会社がのし上がる過程で無慈悲に使い潰されていく無数の人柱があったのは間違いなく、俺や彼は確かにそこに該当していたのだ。時間の経過が怨嗟を薄めた、そういう事ではないのか。

 彼はその業界から離れ、俺は転職を繰り返して留まり続ける違いはあるにしても、かつて俺たちの職場であったあのペンギンマークは今や押しも押されもしない業界内でのエクセレントカンパニーである事は間違いない。その認識は一致点であり、俺たちはどちらからともなく複雑さを込めたため息をついて少しの間黙り込んだ。

 柵から飛び出し、痛い目に合い続けて多くのものを失い、しかしそれでもこれから先の時間は続いていく。あとどれくらい続いていくのかはわからないが。

 しかし、多少気障な言い方をさせてもらうならば、明けない夜はないのだと思いたい。
俺が窮地に陥ったときに差し伸べられた救いの手は確かにあり、そのおかげで今はどうにか一抹の光明が見えつつある時間がいずれ彼にも訪れるはずだと俺は思いたい。

 何か手助けになれそうな事があれば言ってくれと俺は暇を告げた。
少しの間感慨に耽り、本筋の用件を思い出して俺は慌ててあちこちの心当たりに電話をかけまくり、工事の段取りを再開する。
 
 何だかほろ苦い味のする道草だが、たまにはこれくらいいいではないか。徒手空拳で日々を過ごす野良犬同士、いずれどこかでゆっくり飯でも食いながら一年寝食を共にしていた頃の思いで話にでも浸ってみようか。
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