局所的に時間差大雨の不条理

局所的に時間差大雨の不条理
 今日、日曜日も俺はお仕事だ。
本当であれば釣りの大会にエントリーしてバーベキューでもやりながら参加者同士、釣果についてああだこうだと歓談しているはずのところがこんなことになってしまったのはあれこれ経緯があってのことだ。

9月18日の金曜日から話を始める。
夕方から降雨が激しくなってきたこの日は早朝から結構立て込んでいたので早めに切り上げておこうと思っていたのだがこういうときに限ってどん詰まりになってからバタバタと依頼が立て込んでくるもんだ。
 その中の一軒には某デリバリーピザの店舗からトッピングテーブル(コールドテーブル)が冷えないというのがあった。
 俺が勤め人だった頃、20年近く前に施行した現場で、特注品のトッピングテーブルは問題が多く、その後俺はあれこれと改造を繰り返して今に至っている。午後9時頃にならないとその日抱え込んでいた修理が片付かない見通しで、訪問してみると膨張弁の高圧配管接続口からの冷媒リークが認められた。

 ガス漏れは止めたが冷凍機はアウトドアユニットであり、降雨下での冷媒チャージは避けたいところだが店舗の従業員は何が何でも今冷えるようにしてくれ、商材がダメになったらどうしてくれるんだだとかと分けのわからん我を張る。こういう、自分の都合しか考えていないバカは俺を大いに怒らせる。
 それじゃああんたの無理強いに従って雨天下の作業で俺の商売道具が壊れたら弁償してくれるのかと投げかけるとへらへら笑いながら黙りこんだ。

 ほんとに根性のない奴だ。

 立場を笠に着て他人にごり押しするんだったら何が跳ね返ってくるのか自分もそれなりの覚悟くらい決めてからものを言えよバカ野郎が。
 あんたは所詮給料取りの雇われ人で、俺の商売道具がいかれた時の弁済を請け合うだけの裁量はない程度の野郎なのだな、俺は修理が終わったらあんたに無理強いされた作業で商売道具が使い物にならなくなったから弁償してもらうと一筆加えて請求書を書きたいから名前を教えろと迫ると「それは会社に言ってください」とか言いおいて奥に引っ込み、どっかに電話をかけ始めた。
 
 俺はこのバカを絞め殺してやりたい気分で後からどんな障害が出ても知らんからなと伝え、雨の降る屋外に出て冷凍機をいじり始めた。
 それで冷媒を入れ、冷凍機の電源を入れてみたのだがうんともすんとも言わない。マグネットスイッチのプランジャーを押し込んでみるとコンプレッサーが動くには動く。雨降りの中でこんな事をしなければならんのかと思うとあらためて頭に来た。
 何らかの理由で保護停止がかかっているわけだ。雨天下の深夜で作業としては最低の条件な上に俺は朝から働き通しだったりその前のバカタレとのやり取りなどで気が立っている。
 冷静さを取り戻すよう自分に言い聞かせながらライトで冷凍機の外装版に貼付けてある回路図を照らしてみると、紙が風化してしまっていてまるっきり判読できない。
 金曜日の午後10時過ぎとなるとメーカーに問い合わせて資料を取り寄せるなどできっこないから今日はもうダメだと俺は伝えた。
 大体,深夜,降雨の中で電気配線の断線補修など命知らずもいいところで,7月の末には元の勤務先で社員の感電による死亡事故さえ起きているのだ。商売道具どころの話ではない。俺が死んだらあんたらどう責任取るんだと詰め寄ったところで客はようやく引いて、翌日に持ち越しとなった。得意先を出ると既に日付が変わりそうな時刻で,俺はグダグダになって眠ることを決め込んだ。

 翌日9月19日は朝から雨がやまず,一日中降り続ける模様というのが天気予報の示すところだった。
製造元の三菱電機は当然休業日で,読めない配線図はネットからダウンロードできたので件のピザ屋に出向いたが雨の勢いが一向に衰えないので残念ながら当日の屋外作業はNGで翌日に持ち越しとなった。当たり前の話だ。
 「持ち越しとなった」と文字で書けばそれ迄の話だが,翌日20日の日曜日には釣りの大会があり,俺はそれにエントリーしていたので俺は泣く泣く断りの電話を入れて参加費だけを納めた。
 俺のように老人の少し手前くらいの年齢になると夜なべ仕事は本当に翌日に堪える。家でウダウダしていると近所の親戚から電話が来てまた野暮用で駆り出されて深夜に迄及んだ。結局全然休めないわけだ。

 それで本日雨上がりの晴天となり、満を持して俺はそのデリバリーピザ屋さんに出向いた。勘所のコンプレッサーが生きてさえいれば何とでもなるわい、と俺は結構ボルテージが上がっていたのだ。
 店長殿は俺が私用を断って日曜日出向いてきたことに恐縮そうだった。さすがに一昨日の腐れバイトよりはバランスの取れた人格だわな。
 メーカーが休みだろうが部品がなかろうがコンプレッサーが生きていて配線図さえあれば俺が何とかしてやろうじゃねえか,と俺は豪快に大風呂敷を拡げて勇躍,室外冷凍機の配線補修に取りかかった、がしかし、だ。

 冷凍機のケーシングをはずして中の配線を調べていると何だか頭にぽたぽたと水滴が落ちてくる。雨上がりの晴天のはずなのにどうしたことかと軒先を見上げると水滴の落下が勢いを増して雨のようにバシャバシャと降ってきた。
 配線に水がかかると後々厄介なので慌ててケーシングをかぶせて屋根を見ると,どうも局所的に屋根から雨水が落ちて来るようだ。
 その場を離れて空を見上げるとやはり天気は良い。
 軒先からの雨だれが収まりかかったので作業を再開すると幾らも経たないうちにまたボタボタと水が落ちてきて俺の頭はすぐにグチョグチョに濡れた。
 慌ててその場を離れると雨だれが収まり,作業を再開させてエンジンがかかり始めると大雨みたいに軒先からジャンジャン雨水が降ってくる。
 しかも腹立たしいことに,俺が作業しているスペース,幅にして1メートルと少しの範囲でこの現象が起きているようなのだ。

 軒先の庇を見上げると、この現象はごく限られた場所でだけ起こるもののようで,雨だれの跡がついている。

 しかも俺が20年近く前に据え付けた冷凍機がこのむかっ腹の立つ現象のスイートスポットにあるようだ。

 説明するとこうだ、この建物はもともと食料品店だったのだが店舗の屋根は水平な造作で,普請が古いので屋根が凹んでいる。
 そこで雨が降ると屋根のあちこちに水たまりが出来るのだが,その後風が吹くと溜まった水が庇の一番たわんだところに向かって押し流され、その直下に俺の取付けた冷凍機がある。だから今日のような大雨の後の晴天時にはトッピングテーブル用冷凍機の幅の分と少々の範囲だけが雨降りのような状況になる。

 冷凍機に取っ付いてあれこれ配線を調べ始め,本調子になりかかったところで上からドバーッと水が流れてくる,慌てて離れて収まる迄待ち,また取っ付いては軒先から垂れて来る水を頭から被るの繰り返しで仕事がさっぱり捗らない。まるで屋根の上にプールでもあるんじゃないのかと思えるくらい際限なく雨水が降ってくる。
 傍から見ているとかなり間抜けというか質の悪いドタバタギャグみたいな情景だろうが、自分がその当事者となると笑い事ではない,というか何とも説明しようもなく無性に頭に来るのだ。

 断線補修というのは元々,時間の読めない作業だが,最後は頭に来て作業を強行して続行し,ケリがついた時には午後1時半頃になっていた。滞在時間は3時間以上でこんな目に遭わなければ半分以下で済んだはずだ。あんまり頭に来ていたので昼飯を食うのも後回しになっていたことに終わってから気づいた。
 考えてみると頭のてっぺんから爪先まで水浸しになりながらよく感電しなかったもんだと妙に感心したが,帰宅する途中で寄ったコンビニで濡れ鼠の俺は結構客や店員には奇異に見えたようで何だか視線が痛かったぜ。

 いやしかし,考える程についていないというか頭に来る。本当に頭に来る。
20年近く前にその雨だれの起きる範囲から外れたところに冷凍機を据え付けておけば良かったではないかという諸兄のご指摘は当然あると思うが,周辺をどう見てもその場所にしか設置できそうな場所はなかったのである。

 俺は自分の人生にはツキがないことを色々な機会に思い知らされるのだが,こんな風に20年も経ってから口を開けて待ち受けている落とし穴もあるのだから人生わからんものだ。
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